新宿と渋谷に挟まれ、高級な香りと静けさを持つ港区青山。
そんな青山にレトロな風情を残す団地「青山北町アパート」がある。
グローバルでセンシティブな街の景観に沈むように、今まさにその姿を変えようとしているこの団地へ行ってきました。
この記事は2016年10月に訪れた時のものです
青山北町アパートへ向かう
表参道を抜けて、青山通りを左に曲がる。
1964年に行われたオリンピックに向けて拡張された青山通りは、都心部では珍しく片側四車線もある広い国道で、車はバンバン通るが意外とスムーズに進むので好きな通りだ。
歩道はというとオシャレなセレクトショップや、おいしいスイーツの店もあまり無くなってきたのに、やはり人通りは多い。きっと自分たちも知らないスポットがこの先にも沢山あるのだろう。
程なく歩いていると左手側に明らかに人通りが少ないのにとても広い道が現れる。
ここが「青山北町アパート」の入り口だ。
前回の記事も団地だっただけに、団地続きになってしまったレパートリーの少なさに少し反省しつつ、いざ中に入る。
団地の現在
この団地は、敷地を大きく二つに分断するようにメインストリートがど真ん中に舗装されていて、その半分が建て替えの為立ち入り禁止となっていた。
今回訪れた理由の一つはこれだ。
1957年からおよそ10年に渡って建設され、築約60年となった青山北町アパートは、老朽化+この都心の一等地にある広い敷地という好立地が相まって、この都市に馴染むような新しい施設へと変貌しようとしているのだ。
以前(2016年7月頃)訪れた時にはまだ入ることのできた場所も、簡単に通り抜けられてしまうバリケードで塞がれ、徐々に取り壊しへの歩幅を進め始めている。
当たり前の事だが、団地とは家、つまり生活の基盤なのだから、老朽化してしまったら建て替えが行われるのは自然な事だとは思うが、こんなにも大きく、しかも都心で昔の風情が感じられる場所もそうそう無いので、一つの記録として足を運んだ訳だ。
ちなみに、敷地内にあった地図を引用して、回ることのできた場所のマップを作った。
メインストリートを歩く
エリアの半分が立ち入れないことに少し落ち込んでしまったが、気を取り直してまずはメインストリートを歩く。
今では廃墟となってしまった団地群には宿命ともいうべきか、グラフィティの数々。
住宅としての役割を終えたこの建物の向かいでは、野菜の路上販売が行われていた。
およそここら辺のスーパーでは買えないお得な値段で売られている野菜たち。
「〇〇に買い物へ行ったけど高くって」
「ここら辺で買うんだったらうちの方が十分安いよ」
なんて感じの独特な会話も聞こえてきて、よもやこれから建て替えられてしまう団地とは対照的に地に足の着いた感じの生活感を感じさせられた。
この路上販売は近くにトラックがあったので恐らくどこかの農協から出張してきているのだろうと思うが、ここ青山北町アパートではガーデニングのような感覚で野菜を育てている人もいるようなのだ。
この布の下は恐らく野菜を捨てる所なのではないかと推測。
放置されているもの
メインストリートを突き当り、右に曲がる。
ちゃんとしたゴミ捨て場なのかはわからないが、どことなく古い生活感を醸し出す廃品が寄せられている所があった。
ダイアル式のブラウン管テレビや、スキーブーム時代の雰囲気を醸し出すスキー板なんかが捨てられていた。
青山北町アパートにはいつからここにあるんだ?と、とても興味を惹かれるモノが沢山ある。
例えば、長い間放置されてツタだらけの自転車だったり、池のようなもの、木に括りつけられたタイヤだったり、時の経過を感じさせるオブジェが至る所にあるので散策していてまるで飽きない。
個人的にはゴミステーションに綺麗めな傘が哀愁漂う感じで放置されていたのが気に入っている。
区立北青山三丁目児童公園
青山北町アパートの敷地内には以前、4つの公園が存在していたようだが、現在は区立北青山三丁目児童公園だけ残されている。
大きくて青々としたクジラが目印のこの公園には、数人の子供と、時折若者が腰を落ち着かせによっている姿が見えた。
「赤羽台団地」を訪れた際も感じたが、団地公園はなかなかユニークな公園が多い。
団地で生活する子供たちを飽きさせない工夫を感じる。
区立北青山三丁目児童公園の近く、受水槽の横にかつてあったもう一つの公園(児童公園)は完全に更地になっている。
ちなみに、訪れた時は立ち入り禁止エリアにある区立青山五丁目公園がかろうじて隣接するビルの裏から確認することができた。(入れません)
団地を見下ろす
この団地全体の風景を見てみたいと思い、14号棟にお邪魔した。
14号棟は保育施設が併設されているようで、他の建物と少し造りが違って、建物脇の階段を上ると広い踊り場のような感じになっている。
階段を上り5階へ着くと、団地から背の高い新宿の高層ビルが覗く、少し変わった風景を見ることができた。
今ではすっかり周りの建物に抜かされてしまったいるが、昔はきっと5階建て以上の高い建物はあまりなくて、この団地も低い方ではなかったはずだろう。
降りる際に14号棟も見て回ってみると、時間の経過からかなかなか良い雰囲気に仕上がっていた。
街づくりプロジェクトの中からゆっくりとではあるが、確実に変化しようとしているこの青山北町アパート。
この団地がどう移り変わっていくのかはこれからも追い続けていきたい。
以下は載せきれなかった写真になります。
写真・文/平井利治