バブル崩壊後の鬼怒川の温泉街は、当時と比べるとめっきり客足が減ってしまったそうだ。
今では、無事に90年代を乗り越えたビッグネームの巨大旅館は健在だが、不況に飲まれた宿泊施設は当時の姿そのままで、来る事のない観光客を待ち続けている。
鬼怒川沿いに佇む「きぬ川館本店」は、一昔前の旅館の情緒がそのままパッケージされた廃墟だ。
川をベースとしたアクティビティの数々!
周辺にはオリジナリティ溢れるレジャー施設!
首都圏からは好アクセス!
今でも温泉街といえば「鬼怒川」という人も少なくないだろう。
自分も紅葉が見頃の時期には、よく祖父に連れられて来た事を懐かしく思う。
某有名ホテルの名前を歌ったあのテレビCMのメロディは、今でも耳に残っている程だ。
しかし、それも今は昔の話。
客足の遠のき具合がどれ程のものか知らないが、今と景気が良かった時代との”差”は街を歩けば嫌でも理解できてしまう。
非日常的な感覚を味わう事が出来る温泉街の中に、観光ビジネスの現実とも言えるような、廃旅館・廃ホテルがちらほら見受けられる鬼怒川の街並み。
その象徴とも言える廃旅館群が連なる所が川沿いにそびえ立っている。
中でも、一際錆びれた雰囲気を醸し出しているのが「きぬ川館本店」だ。
今や関係者すら入らなくなった廃旅館から、失われてしまった鬼怒川温泉街の情緒を探しに行こう。
フロアマップ
▲探索途中で見つけたもの
こちらは、旅館内にあった避難経路の案内図。
見ての通り1F〜9Fまである建物だが、川縁にあるのでロビーとフロントは5Fにある。
そして、最下層に見えるのが今回の目的地「かっぱ風呂」。
図からこの旅館が入り組んでいる事はなんとなく想像できると思うが、天井や地面が崩れ落ちている場所もあれば、明かりが全くない通路、物で塞がれた部屋等々、実際歩くとまるで迷宮のような廃旅館だ。
調理室/スタッフルーム
きぬ川館本店周辺を一通り確認して、いざ内部へ。
フロアの構造は、今の所全く分からない状況だが、どうやら着地した場所は調理室のようだ。
暗い室内。ライトを点けて進む。
営業していた当時は、この広い調理室も人が溢れていたのだろうか。
団体客が来るたびに大慌てするような、ドラマにでも出て来そうなやり取りもあったのかもしれないが、ガランとした室内は只々寂しい。
ライトを照らしてよくみて見ると、調理器具やお皿なんかも割としっかり残っている。
調理室の脇に進めそうな通路があるので進んで見ると、スタッフ用のロッカーや、業務室っぽい部屋がある。
▲会議室だろうか?
中には天井が思いっきり崩壊して、上のフロアが丸出しになっている部屋も。
物理的な危険度を再確認し、更にその奥に進む。
業務的な部屋ばかりかと思っていたが、急に生活感溢れる部屋。




壁に掛かっていたカレンダー。どうやら2005年まではここで生活していたようだ。(きぬ川館本店は1999年に閉館)
名入りの大きい金庫?のような物がある所を見ると、それなりに責任があった人が住んでいたのではないだろうか?
▲別館もあったようだ
しかし、部屋を見た感じだと知る術はなさそうだ。
調理場が近くにある訳だが、この部屋には家庭用の台所がある。
奥に進むと家庭用の風呂。
更に行くと、酷く荒れ果てた和室が一室。
別のフロアへ向かうべく、調理室から階段へ。
中を覗くと、何処から持って来たのだろうか、大量の布団が散乱していた。
宴会場
先ほどの天井が崩壊していた部屋。そこから見えていたのは、宴会場だったようだ。
半分は襖で仕切られているが、とても広い宴会場。
小学生以来の鬼怒川で、知る由もなかったのだが、広い宴会場を使って団体客がドンチャン騒ぎするのが鬼怒川温泉の十八番だったそうだ。
早速目に飛び込んで来るのは、真ん中に空いた馬鹿でかい穴。
下に見えるのは先程の一室。
▲何故かカートが放置されている
この日は雨が降っていたので、天井からポタポタと雨水が滴っていた。
恐らく長年の雨漏りが、その真下にあった畳を劣化させ、このような巨大な穴を空けてしまったのだろう。
ちなみに、穴周辺の畳も抜けておかしくない程ベコベコになっている。
襖を挟んだ隣の宴会場。
殺風景だが、広い室内と正面の舞台のおかげか中々迫力のある空間となっている。
脇の廊下には、何故か鹿の剥製が二体放置されていた。


▲足元には草。長年放置されていたようだ
廊下を突き当たりまで歩く。
途中に物置があったが、入れそうになかったので遠目で観察。
奥に進むともう一つの宴会場を見つけた。
天井はベロベロと剥がれ落ちているし、暗くてよく見えないが、畳も直ぐに抜けてしまいそうなので、中に入るのはやめた方がよさそうだ。
フロント/ロビー/ラウンジ
営業していた頃は玄関だったこのフロアも、倒産してからは入口は外からプレハブで塞がれ、まるで物置の様に使われているようだ。
フロントもお土産処も、見るも無残な残骸のように変貌してしまっている。もはや、何がなんだか分からない状態だ。
▲おみやげ処はシャッターが降りている
ロビー部分と思しき場所。
割れた窓から侵入してきた草が、案外良い按配で茂っている。
案内図で見た感じだと恐らく、こちらはラウンジ。
▲カッパのモザイクアート
そして、何処にあったのか知らないが、サンドバックが放置されている。
下層へ向かう/ゲームセンター
入り口周りの目ぼしい部分は一通り見終わった(たぶん)ので、最下層にある「かっぱ風呂」へ向かおう。
こちらは途中見かけた瓦礫の山。
崩れた隙間から看板が見える。
建物自体も物騒だが、置いてある物もなんだか物騒になってきた。
その瓦礫の山の隣に、下へ降りる階段がある。
フラッシュを使ってで撮影しているので解りづらいが、目で見た感じだとめちゃくちゃ暗い。
現在地不明な状況で階段を下り、暗い廊下を歩いていると、一昔前のレトロチックなゲームセンターを見つけた。




懐かしのコンテナ型のカラオケボックスが二台。
入りたくてもは入れなかった、あの幼い頃の好奇心で、中を覗いてみる。
まるで世紀末。
ドロドロとしたボックス内はなんだかシェルターっぽいな。という感想を持ちつつドアの横を見たら…
同じ事を考えた奴がいたようだ。
かっぱ風呂
風呂場へのサインは度々目にするのだが、何故か目的地へ辿り着けない。
相変わらず暗い階段を下り続けると、暗闇の中から一点、明るい窓。
彷徨うこと数時間、やっと「かっぱ風呂」に到着したようだ。
まだ清潔感がある浴槽に、半円のパノラマウィンドウから覗く景色はとても良い感じ。
別にコレが由来という訳ではないと思うが、河童さん達もちゃんといる。
▲温泉はカッパの股間から湧いていたようだ
脱衣所も割と綺麗め。ちなみに殿方専用だそうだ。
此処までの退廃的なイメージのおかげか、美しい空間に少しうっとりしてしまう程。


良いものが見れた。と心のセーブポイントに変えて、かっぱ風呂を後にした。
その他の温泉とプール
きぬ川館本店にあるのは「かっぱ風呂」だけではない。
女性専用の温泉や、家族風呂、露店温泉プールなんかもある。
折角なので、その他見つけた温泉を紹介していこう。
かじか風呂
まずは3Fにあった「かじか風呂」。
雨漏りしていたようで、目を瞑りながら探索しているかのような暗闇から、水滴の音がピチャピチャ聞こえて来るのがとても怖い。
▲またもカッパ発見!
写真で見てみるとコチラも案外綺麗な温泉だ。
しかし、隣にあったボイラー室は悲惨な状態だ。
露天温泉プール/たから風呂
続いては「かっぱ風呂」の隣にあった「露店温泉プール」と「たから風呂」。
かっぱ風呂と比べると見劣りがちな「たから風呂」。
その真後ろから、屋外の露店温泉プールに移動できる。
よもやプールというより、手入れされていない人口池のようだが、プールだった面影も若干見受けられる。
扇風呂
6Fにあった御家族用「扇風呂」。
特別大層な造りでもないが、一応見つけたのでチェック。
客室
最後に紹介するのは客室。
実際はかっぱ風呂へ到着する間に、一部屋ずつ確認して回っていたのだが、いかんせん、60部屋近くあるので掻い摘んで見ていこう。
最初に訪れた調理室を出て階段を上がると、直ぐに最初の客室が見えた。
図面を見る前だったので、今は6Fにいるという事にハッさせられて中へ入る。
中身はどこにでもあるような旅館の和室。
基本的にはどの部屋もこんな感じだ。
旅館のアイテムも、割とそのまま残っていたりする。


しかし、必ずと言っていい程どの部屋にも、叩き壊されたシンクとブラウン管テレビが虚しく放置されているのだ。
何故こんな事になっているのか?それは、空き家を狙って窃盗をする不届き者がいるからだ。特に、オリンピック前なんかは金属の値段が上がるので、こういった犯罪も増えるのではないだろうか。
その他の客室も一応紹介。


ちなみに、この旅館、消火栓も片っ端から空けられている。
記事内でも開けっ放しの消火栓が出てきているので探して見るのもいいかも。
仏壇の部屋
位置的には普通の客室なのだが、どうも誰かが生活していたと思われる客室が数部屋ある。
コチラは少しゾッとした客室。造りは先程の客室となんら変わりないのだが、物が多い。
入って左手。扉を少し塞ぐように、大きい箱のような物が放置されている。
▲外に向けて開帳している
これ、なんと仏壇。
観音扉も完全に開いた状態で放置されている。
流石に直接載せるのは気がひけるので、気になる方は此方のリンクへ↓
https://flic.kr/s/aHsm52u5Vv ※モザイク加工済み
▲指輪も盗難されてしまったのだろうか
▲隣の部屋にあった散乱したアルバムと写真
家庭の部屋
生活の形跡があった部屋は別にもある
川に面していないこちらの部屋。
キッチンがある事からして、どうも客室では無いようだが一応紹介。
クリーニングされたてのスーツが壁に掛けてあったりして、生活臭が他の部屋より濃い。
▲学習机?
この部屋も旅館の関係者が生活していたのだろうか。
業務の部屋
5F〜9Fにある客室は、正直変わりが無いので、少し飛ばし気味で見ていたのだが、明らかに何かしらの業務を行っていたと思われる部屋が一室。
後に調べてみたところ、きぬ川館では近隣に元はホテル(現存しているようなので名前は伏せます)だった物件の管理も行なっていたようだ。
見た感じだと、古くもなさそうな資料や事務用品。
因みに屋上階にも行ってみたが、施錠されていた。(別の所からなら入れたかも)
線の部屋
4Fより下の階は、ほとんどが暗闇。
垂れ下がった天井の素材が顔にペチペチあたって、まるでお化け屋敷を歩いているようだ。
台車に乗せられた照明器具?(逆さになっているが「きぬ川館」と書いてある)
そして、足元には謎紐が大量に散乱していた。
何かの配線だろうか。
それが、開けっ放しになった客室へ伸びている。
ロハスの部屋
暗い雰囲気で終わってしまうのも忍びないので、最後にいい感じの客室を紹介しよう。
こちら4Fにあった、少しランクの高そうな客室。
脇にあった小部屋が、インスタ映えしそうなロハス空間に仕上がっていた。
ポートレートを撮ったらいい写真が撮れそうだ。
探索を終えて
大人数が密集していたのであろう宴会場、入り組んだ階段に廊下、とってつけたような温泉施設。
高級感や特別感が好まれる現代の宿泊事情とは真逆で、きぬ川館はつぎはぎを縫い合わせて造られたような、極めて大衆的な旅館だった。
今回をきっかけに、鬼怒川の宿を検索してみたところ、「一昔前なら良かった」だとか「廃墟が多くて…」 なんていうレビューが度々目に入ってくる。
まぁそれは間違ってはいないのだけど、逆に言えば一昔前な旅館の大体は廃墟化していて、営業しているのは現代のニーズに応えるようにリノベーションされた旅館や、真新しい宿泊施設、もしくは昔から名の知れた大型ホテルだけではないだろうか。
きぬ川館は鬼怒川内では2,3番目に古い旅館だったそうだが、結局は時代に飲まれてしまった"一昔前の旅館"だ。
古き良きとは得てして、時代に合っていなければ存在することすらできないのだとしたら、鬼怒川廃墟はこの先も増え続けるのかもしれない。
関東屈指の温泉街「鬼怒川」。
その冠が再び光り輝く日は一体いつなのだろうか。
きぬ川館本店付近にある廃テーマパーク「日光ウェスタン村」の記事はこちら↓